鏡こそ真実だなんてそれこそ嘘だ。
私は鏡が好きでした。
もともとそこまで自分の容姿に深い感慨があったわけではありません。
でも鏡を覗くと笑顔の私がそこにいて、それを見て明日を少し頑張れそうな気がしたから。
それは始まりの話で、過去の話でした。
一時期は鏡が嫌いで仕方なかった
苦い苦い渋みを飲みながら仕事をこなしていた私は、甘い蜂蜜を舐めるために必死で、自分の容姿なんか気にしてすらいなかった。
自慢だった髪の毛は適当に短く切ってもらった
色を抜いてみたりもした
化粧をせずに出勤した毎日
繊細に物事を見るのを嫌って、いつからか眼鏡を外してしまった
1年が経って、蜂蜜の横に鏡が置いてあった
そう言えば私は何故鏡が嫌いになったのだろう、これを覗いたらわかるのだろうか、
覚悟もせずに覗いた。
そこに写っていたのは、人間ではなかった
ボサボサの髪の毛、化粧もしていない、荒れた肌に、手入れのされていない爪、
極め付けに、醜く太った身体だった。
たしかに以前から痩せていた訳ではなかった
でも、それにしても酷いぐらい、
今までの服は当然着れなくなっていた
なんで、なんで。なんでだろう。
仕事を頑張れば、出来る、使える人間になれば全て上手くいくと思ってた、
でも何もうまくいかないと。
私は間違えたのか。
どこで、そこで、もう遅い、遅くない、
動かなきゃ、でも動きかたがわからない、
言い訳が嫌いな人間だった。
でも今、その嫌いな人間になろうとしている。
それが一番、私にとっての苦痛なのかもしれない。
真実を知った日から半年以上の日が経った。
私は15キロの砂糖を落とした。
そうして、やっと普通の人間に戻れた気がした。まだまだ痩せている訳ではないけれど、及第点として、一息にやるべきものでもないのだろう。
あの日からまた鏡を何度も見ている。
鏡越しにみる真実が果たして本当のものなのか、私はまだ計り知れずにいたりする。
鏡の中の私は本当に笑っている?
この姿に騙されて、ちがう、鏡だけじゃない、カメラだってそう、人を写す媒体のものはみんな、人間を騙すから、
騙されるから、
人は嘘は嫌い、っていいながらも、騙されるのが好きな生き物だから。
少しの嘘と甘い蜜を交えて、鏡とにらめっこをする時間を、私は少し苦々しく思うのだ。